製品開発や製造現で
こんな経験はないでしょうか。
「温度を変えたら良くなったので、その条件を採用した」
ところが、
別の材料に変えたら結果が悪くなった。
そこで
今度は圧力を変えてみる。
すると
別の問題が発生した。
さらに
別の条件を調整すると、
今度は
最初に良かったはずの条件が悪くなる……。
こうして、
条件を変える → 良くなる → 別の問題が出る → また条件を変える
ということを繰り返してしまいます。
製造業の現場では、
珍しい話ではありません。
なぜ、
このようなことが起きるのでしょうか。
その理由のひとつは、
実際の製品や工程では、
多くの条件が同時に
影響し合っている
からです。
今回は、こうした複雑な問題から
「安定してうまくいく条件」を
効率よく見つける方法について、
できるだけ専門用語を使わずに
説明していきます。
そして最後に、この考え方が
「パラメータ設計」と呼ばれる方法に
つながっていることを紹介します。
実際の製品や工程は、一つの条件だけで決まらない
たとえば、ある製品の接着強度を高くしたいとします。
接着強度に影響しそうな条件を考えてみると、
- 接着剤の種類
- 接着剤の量
- 加熱温度
- 加熱時間
- 押し付ける力
- 材料の種類
- 材料表面の状態
など、たくさんあります。
これらを実験の世界では
「因子」(いんし)と呼びます。
因子とは、
結果に影響する可能性がある条件
のことです。
さらに、
「温度を100℃にするか、120℃にするか」
「時間を10分にするか、20分にするか」
といった、
それぞれの条件の設定値を
「水準」と呼びます。
つまり、
因子=調べたい条件
水準=その条件をどの値に設定するか
と考えればよいでしょう。
実際の製品では、
これらの条件が
一つだけ働いているわけではありません。
多くの条件が同時に働き、
その組み合わせによって
最終的な結果が決まっています。
一般的な実験では、条件を一つずつ変える
学校の理科実験などでは、
「調べたいもの以外は同じ条件にして、一つだけ変えましょう」
と教わった方も多いと思います。
たとえば温度の影響を調べるなら、
材料、圧力、時間などはすべて同じにして、
温度だけを、
・80℃
・100℃
・120℃
と変えて、結果を見る。
これは物理現象を調べるうえでは、
とても大切な方法です。
「温度がどのような影響を与えているのか」
を調べるには、
非常に分かりやすい実験だからです。
物理学者や科学者といった
現象を解明する仕事をする分野では
至極当然のやり方になっています。
企業の技術開発でも、
「なぜ、この結果になったのか」
「理論的に説明できるのか」
と求められることが多いため、
このような一つずつ条件を変える実験は
よく行われています。
こういうデータをとって
上司や客先に説明すると
だいたい納得してもらえます。
その経験こどが、
多くの技術者における
コンフォートゾーン
(居心地が良いやり方)
になっている、と私は思います。
しかし、
実際の製品開発では、
この方法では
うまくいかないことがあります。
一つずつ調べた結果が、そのまま使えるとは限らない
たとえば実験をして、
「温度は高い方が良い」
という結果が出たとします。
ところが、
材料を変更して同じ実験をすると、
今度は、
「温度は低い方が良い」
という結果になった。
これは決して
不思議なことではありません。
ある条件の効果が、
別の条件によって
変わることがあるからです。
たとえば、
材料Aでは温度を高くすると強度が上がる。
しかし、
材料Bでは温度を高くすると逆に強度が下がる。
このような関係です。
専門的には、このように
「ある条件の効果が、別の条件によって変わること」
を「交互作用」と呼びます。
言葉は少し難しいですが、
「組み合わせによって結果が変わる」
くらいに考えておけば十分です。
別の表現をするなら、
「あっちを立てれば、こっちが立たない」
という感じでしょうか。
そういう矛盾した状態、
ありますよね?
条件を一つずつ調べるやり方では、堂々巡りになる
たとえば、
最初に温度を調べて、
「120℃が一番良い」
と決めたとします。
次に圧力を調べて、
「圧力は高い方が良い」
と決める。
次に材料を変えてみる。
すると、
これまで良かったはずの
温度120℃では結果が悪くなる。
そこで、
「温度をもう一度調べよう」
となります。
すると、
温度を変更
↓
圧力を変更
↓
材料を変更
↓
再び温度を変更
↓
今度は時間を変更……
という状態になります。
実際の技術開発や現場では、
このようなことがよく起こります。
短期間にやっていなくても、
一度条件を決めて運用し、
何かトラブルがあったときに
見直してみたら・・・
というふうに、
後になってわかった、
ということのほうが
多いかもしれません。
条件同士の組み合わせを考えないまま、
一つずつ「最良」を決めてしまうと、
全体として良い条件にならないことがある
のです。
なので、考え方を変えるべきなのです。
ならば、多くの条件をまとめて調べればいい
いろんな条件が
互いに関係しているのであれば、
最初から複数の条件を一緒に変えて
調べればよい。
単純な答えは、そうなります。
そのひとつのやり方が、
QC検定2級レベルで勉強する
実験計画法の
二元配置、三元配置
というやり方です。
でも、
温度
圧力
時間
材料
:
いくつの条件が
そこにはあるのでしょう?
因子の数は、
2個や3個ではないことが多いのでは?
全部の組み合わせを実験したら、とんでもない回数になる
仮に8個の条件があり、
それぞれについて3種類の設定を試すとします。
すべての組み合わせを実験すると、
3×3×3×3……
と実験数が急激に増えていきます。
8個(8因子)×3種類(3水準)
それら全ての組み合わせを試すには、
6,561通りもの条件になります。
とても現実的とはいえません。
そこで、
全部の組み合わせを試さなくても、
多くの条件を効率よく比較できるように、
実験の組み合わせを工夫する
という方法を使います。
その代表的な道具が「直交表」です。
「直交表」は、実験の組み合わせを効率よく決める表
直交表という名前を見ると、
「難しそうだ」
と感じるかもしれません。
でも、
慣れてしまえば
意外と簡単に感じるものです。
直交表は、
少ない実験回数で多くの条件を比較できるように、
条件の組み合わせをあらかじめ工夫した表
です。
たとえば、
1回目は
温度=低い
圧力=低い
時間=短い
2回目は
温度=低い
圧力=中
時間=長い
3回目は……
というように、
条件の組み合わせを
計画的に変えて実験します。
適当に組み合わせるのではありません。
それぞれの条件を比較しやすいように、
組み合わせ方に一定のルールがあります。
これによって、
すべての組み合わせを試さなくても、
多くの条件について情報を得られるようになります。
直交表は、
多くの条件を効率よく調べるための道具
と言えます。
なお、
直交表にはいくつか種類があって
品質管理で使われている
現象解析を目的とした配置の表
もありますが、
私が使うのは、
正式名「混合型直交表」
と呼ばれるもので、
実験の効率化以外にも
大切な役割があります。
難しくなるので
ここでは説明を省きますが、
実験の効率化も大きな役割のひとつ
には違いありません。
そして、
効率化だけでなく
大切なことは、
その先にあります。
「一番良い値」を見つければ、それで終わりなのか?
ここで、少し別の問題を考えてみましょう。
ある製品の性能について、
「100」を目標にしているとします。
実験の結果、次の2つの条件が見つかりました。
条件A
平均値=100。
その条件での測定値は、
80
95
110
120
90
条件B
平均値=90。
測定値は、
89
91
90
88
92
さて、どちらが良い条件でしょうか?
目標値だけを見ると、
100に近い条件Aの方が良さそうです。
しかし
実際の商品として考えると、
80になったり120になったりする製品では困ります。
一方、条件Bは
目標の100には届いていませんが、
非常に安定しています。
ここに重要な考え方があるのですが、
ばらつきが大切だということです。
このような、簡単な例を説明すると
みな、「そんな簡単なこと、わかるよ」
と言うんですが、
実際の仕事になると、
目標値を達成することに集中している。
そのことに
意外と気付いていないものなのです。
まず安定させて、そのあと目標値に合わせる
最初から「100になる条件」を探すのではなく、
まず、
結果がばらつきにくい条件
を探します。
先ほどの例なら、条件Bです。
そして安定した条件が見つかったあとで、
平均値90を100へ動かせる別の条件を使って調整します。
つまり、
第1段階
まず、ばらつきを小さくする
そのあと、
第2段階
目標とする値に合わせる
という順番です。
このやり方を、
「2段階設計」
と呼びます。
考え方は単純です。
「まず安定させる。そして最後に狙った値に合わせる」
この簡単なことが
なぜできていないのか?
それは、
一つずつ調べているからです。
この条件(因子)はばらつきに効くだろうか?
そんな比較を、
スタートの段階から
捨ててしまっているんです。
そしてもう一つ、
ばらつきにも気分があって、
なぜか、その日によって変わる、
ということです。
実験室でうまくいっても、実際の製品では条件が変わる
もう一つ重要な問題があります。
実験室では、
条件をかなり一定に保つことができます。
しかし、
実際の商品や製造現場では
そうはいきません。
たとえば、
・夏と冬で気温が違う。
・材料のロットによって性質が少し違う。
・部品の寸法にもわずかな違いがある。
・設備も毎日まったく同じ状態とは限らない。
・使う人によって使い方も違う。
つまり、現実の世界では、
こちらが完全にはコントロールできない変化
がたくさんあります。
こうした変化する条件を、
「誤差因子」
と呼びます。
結果をばらつかせる原因になりそうな条件
問題なのは、
その、全ての原因を
把握することは難しい
ということです。
ばらつきを無くすのではなく、「影響を受けにくくする」
普通に考えると、
材料がばらつくなら、
「公差をもっと厳しく管理しよう」
温度が変わるなら、
「温度を一定に保とう」
と考えます。
現在、普通にそのような管理を
行っていると思います。
しかし、
すべてを厳しく管理しようとすると、
高価な設備が必要になったり、
材料の選別が必要になったり、
検査工程が増えたりします。
当然、コストも上がります。
そこで、発想を変えて、
誤差の状態が変わっても性能が変わらない条件を探せないか。
つまり、
変化そのものを完全になくすのではなく、
変化があっても影響を受けにくい製品を作る
という考え方です。
このような設計を
「ロバスト設計」
と呼びます。
「ロバスト(robust)」には、
頑健な、多少の変化では影響を受けにくい
という意味があります。
したがってロバスト設計とは、
「周りの条件が少しくらい変わっても、
安定して働くようにする設計」
と考えればよいでしょう。
良い製品とは?
みんなが考える「良い製品」
って何ですか?
強度が高い
速度が速い
○○が大きい・・・
といった
「一番良い値」に目が向きがちです。
しかし
実際の商品として考えると、
最初だけ最高性能が出ることよりも、
どんな環境で使っても、
多少条件が変わっても、
何年使い続けても
:
同じような性能が出ること
の方が大切だと
私は思います。
さきほどの例でいえば、
実験室では100点だが、
実際に使うと60点から110点まで変化する製品。
よりも、
どんな環境でも90点前後を安定して出せる製品。
どちらが使いやすいでしょうか。
後者のほうが良くないですか?
品質というものを、
単純な「性能の高さ」だけではなく、
「結果の安定性」まで含めて考える
ことが大切なのです。
ここまで説明してきた方法が「パラメータ設計」
ここまで、
専門用語をなるべく使わずに
説明してきました。
内容をまとめてみます。
まず、
実際の製品には、多くの条件が関係している。
だから、
一つずつ条件を調べるだけでは、
実際の製品で最も良い組み合わせを
見つけられない。
そこで、
複数の条件をまとめて実験する。
ただし全部の組み合わせを試すのは大変なので、
少ない実験回数で多くの条件を調べられるよう、
直交表を利用する。
さらに、
単に目標値に近い条件ではなく、
まず、ばらつきにくい条件を探す。
そして、
安定したあとで目標値に合わせる。
ここでいう「ばらつき」には、
繰り返しばらつき以外の
いろんなばらつきを考えることで、
環境や使われ方が変わっても
性能が変わりにくい条件を探す。
こうした一連の考え方が、
品質工学で使われている
「パラメータ設計」
です。
パラメータ設計は「原因を全部解明すること」と少し目的が違う
ここも、とても大切なところです。
一般的な実験では、
「なぜ、この現象が起こるのか」
を詳しく調べることを重視します。
もちろん、
原因を理解することは重要です。
しかし
企業の技術開発では、
時間とお金に制限があるので、
現象解析に時間を使いすぎると
開発が間に合いません。
原因を詳しく説明できても、
製品が壊れてしまっては困ります。
反対に、
すべての現象を完全に説明できなくても、
多少条件が変わっても安定して性能を出せる設計ができれば、
製品として大きな価値があります。
パラメータ設計が得意としているのは、
「原因をすべて解明すること」
よりも、
「安定した性能が得られること」
です。
もちろん、
原因を考えなくてよいという意味ではありません。
技術的な蓄積は重要です。
そのうえで、
再現性のある条件を効率よく見つける
ために、パラメータ設計を使います。
トラブルが起きてから直すのではなく、起きにくい設計へ
製造現場では、
→不良が発生した。
→原因を調べた。
→対策した。
しばらくすると、
→また別の不良が発生した。
→再び原因を調べた。
という
「モグラ叩き」
のような活動になることがあります。
もちろん、起きた問題への
対策は必要です。
しかし、本当に目指したいのは、
トラブルが起きてから直すことではなく、
最初からトラブルが起こりにくい条件を作ること
ではないでしょうか。
・多少の材料差があっても大丈夫。
・多少の温度変化があっても大丈夫。
・多少の加工ばらつきがあっても大丈夫。
そのような技術を作ることができれば、
不良の低減だけではなく、
・検査の削減、
・管理コストの低減、
・製品の信頼性向上
にもつながります。
まとめ 「安定してうまくいく条件」を探す
パラメータ設計と聞くと、
「品質工学」
「直交表」
「SN比」
「ロバスト設計」
といった難しそうな言葉が出てきます。
最初からこれらの言葉を
覚える必要はありません。
まず理解してほしいのは、
次の考え方です。
製品には多くの条件が関係している。
だから、条件を一つずつではなく、
組み合わせて考える。
平均値だけを見るのではなく、
ばらつきの小ささも考える。
まず安定した条件を作り、
そのあと目標値に合わせる。
そして、
周囲の条件が多少変わっても性能が変わりにくい製品
を目指す。
これが、パラメータ設計の基本的な考え方です。
言い換えれば、
「何度やっても安定して良い結果が出る条件」を探す方法
と考えてもよいでしょう。
企業の技術にとって重要なのは、
最初だけ良い結果が出ることではありません。
誰がやっても、
材料が多少変わっても、
環境が多少変わっても、
同じ結果を再現できることです。
パラメータ設計は、
技術を
「偶然うまくいった状態」
から
「再現できる状態」
へ変えていくための方法
なのです。